北欧ファミリーレストラン「Keitto Ruokala(ケイットルオカラ)」では毎月、北欧各国に在住の方々から集まる現地レポートからインスピレーションを得てシェフが創り上げる「北欧コース」をお届けしています。
今回はその特別編として、フィンランドでメディアコーディネーター、ライター、翻訳・通訳者、サウナ文化研究家としても活躍中のこばやしあやなさんに「3月の食卓」について伺いました。
フィンランドの3月は、白銀の冬景色
日本では、3月といえば「卒業・別れの月」であるとともに、やはり「春の訪れの月」というイメージが強いですね。そしてきっと、とりわけ長い冬を耐えた北欧の人が春を迎えるこの季節は、格別に輝かしく喜ばしいのだろう…と想像する人が多いのではないでしょうか。
ところが実のところ、かれこれ10度フィンランドで冬越ししたはずの私自身、いまだにこの国の春が本当に3月始まりなのか、あるいはそもそも、春の定義は何なのかがわからないままに暮らしています。というのも、地表の雪や凍った湖はそう簡単には溶けませんし、木々や草花が緑を芽吹き始めるのも5月半ばにようやく、といった感じ。さらに、フィンランドの新年度は9月始まりなので別れの季節というわけでもないですし、そもそも3月には祝祭日がまったくありません。つまり、3月は華やかな喜びの季節というよりむしろ、ハイライトのない、戸惑いやもどかしさのほうが大きい時期なのです。
確かに、3月に入れば厳しい寒さは幾分和らぎ、プラス気温に転じる日も出てきます。とはいえ、少なくとも3月はまだまだ「三寒四温」ならぬ「五寒五温」、つまりしつこい寒波が一進一退を繰り返す日々。少し暖かめの日が続いたと思ってもいきなり吹雪や厳寒の再来で真冬同然の景色に戻ったり…という目まぐるしい気象のジェットコースターに、何度も何度も振り回されるのです。それでも3月も後半になってくると、フィンランド人たちは白い息を吐きながら幸せそうに外でのびをするようになります。かろうじてプラス気温の日が来た瞬間、半袖短パンで外を出歩く浮かれ者も出現するほど。どう見たって、私の目にはまだまだ冬景色にしか映らない白い世界で、彼らはいったいどこに春らしさを感じているのか…。そのたしかな拠り所は、どうやら「光の変化」であるようです。
気象の変化は気まぐれで、年によっても傾向が全然違います。けれど日照時間や光量だけは、毎年しぶりも裏切りもせず、確実に平等に、季節を春へそして夏へと向かわせます。3月下旬に迎える春分の日(kevätpäiväntasaus ※ただしフィンランドでは祝日ではなく、お祝いは夏至と冬至〈クリスマス〉のみ)には、日本もフィンランドも昼夜の時間が均一になり、さらにその日を境にして、ぐんぐん日照時間が伸び白夜の季節へと突き進んでゆくのです。2月はまだ、朝起きても外がまだうす暗いものです。けれど3月にもなれば、朝日を浴びながら起床できるようになります!それは日本人にとっては年中当たり前のことでも、極北に暮らす人には当然でないからこそ、この上なく幸せな一日の始め方なのです。
ジェンダー平等の先進国フィンランドは、女性が喜ぶメニューに溢れている!
祝祭日もこれといったイベントごとも一切ない、ちょっぴり単調で退屈なフィンランドの3月。けれどこの月は、長引く雪景色のなかでの光の変化に密やかに春の到来を感じながら、来たるべき「夏」に向けて、慎ましくも前向きに心身や暮らしを整えてゆく…そんな準備の月なのかもしれません。いっぽう、国の伝統習慣というわけではないですが、近年フィンランドだからこそ世界のどこよりもしっかりお祝いをして盛り上がる国際デーがあります。3月8日の「女性の日(naistenpäivä)」です。
フィンランドが、世界で最初に女性に参政権を与えた国であること、首相を始めとする内閣の代表に女性が多いことなど、世界有数の「男女平等」社会に力を注いできた国であることは、国際的にも有名でしょう。また、ここだけの話ですが、フィンランドはまれに見る「かかあ天下の国」であります(笑)もちろん一概にはいえませんが、得てして男性のほうが穏やか・控えめであるいっぽう、アクティブで何事にも物怖じしない女性が多いこと!フィンランド女性は、当然おしゃれにも美容にも関心がありますが、デートのときに男性におごってもらうことや、荷物を持ってもらうことはとくに望んでいません。いまでこそ、性差や役割を意識せずに、家庭にも社会にも自立的に関わる女性が目立つ国になりましたが、歴史的にはもちろんこの国の社会にも、男尊女卑の価値観が存在していました。だからこそ、「女性の日」にはパートナーが花をプレゼントしたり女性が喜ぶメニューを食卓に並べることで、女性の社会的地位が認められやすい時代に生きていることを喜び合ったり、さらなる平等化に向けて思いを新たにするのです。
女性が喜ぶ料理はやっぱり、ヘルシーで美容効果も高いもの、そして見た目にもおもわず「イハナ!(かわいい!)」と声が出てしまうスイーツでしょうか。ヘルシー志向な女性に人気のワンプレートが、サーモンなどの魚やあっさりしたチキンのソテー、ゴートチーズのオーブン焼きなどがどんと上に乗ったメインディッシュ・サラダ。付け合せのじゃがいもの代わりに色とりどりのフレッシュサラダをしっかり摂取しながら、良質なたんぱく質やビタミンDの豊富な肉魚をシンプルなグリルでいただきます。
そしてもうひとつ、これも春先のフィンランドの新しい文化として定着しつつあるのが、世界的にはパンケーキ・デイ(フィンランド語でLaskiainen)と呼ばれる、四旬節の開始日のお祝いにかこつけた、ブリニ・ウィークです。四旬節というのは、キリスト復活祭(イースター)の46日前から始まる特別な期間のことで、伝統的に食事の節制や祝宴の自粛をしなければなりませんでした。だからその開始前には、各キリスト教国でパンケーキに象徴される、旨味や甘味たっぷりな食べ物をしっかり食べて四旬節に備える、という風習ができたのです。フィンランドを始めとする北欧諸国では、ラスキアイス・プッラやセムラといった名で呼ばれる、クリームやジャムの詰まったシュークリームのような見た目の菓子パンを食べるのが昔ながらの定番。ですが、近年はそれと同時に、お隣のロシア(東方教会)流の祝い方を踏襲した「ブリニ」をおしゃれに食べるのが、新しいカルチャーとして定着しつつあるのです。
ただし、本場ロシアのブリニとフィンランド・ブリニは、どういうわけか生地の見た目がだいぶ違います。ロシアでは、クレープのように薄く広げて焼いた生地に、サワークリームからジャムまで、さまざまなトッピングや具材を挟んで楽しみます。いっぽうフィンランドでは、ジャムの瓶底くらいのサイズで丸く、しかもイーストで発酵させふっくら分厚く焼き上げた生地の上に、イクラなどの魚卵や小エビ、刻んだ玉ねぎやきゅうりのピクルス、ディル、そしてたっぷりのスメタナ(サワークリーム)を乗せて、おもには食事メニュー(前菜)としていただくのです。
四旬節は毎年変動するのですが、今年2022年のパンケーキ・デイは3月1日。この時期が近づくと、街のあちこちのレストランがブリニ・ウィーク(Bliniviikko)を銘打ち、シーズナル・メニューとしてブリニを提供し始めます。
最後に、この季節の数少ない旬の食材としては、晩冬から初春にかけて凍った湖の下で産卵期を迎える、カワメンタイというタラに似た淡水魚(よくクリームスープにしていただきます)。また、前の夏や秋のあいだにたくさん取ってストックしておいたベリーやキノコを少しずつ計画的に消費しながら、もうまもなく始まる次の恵みの季節に思いを馳せます。
3/2~3/31の限定!こばやしあやなさんコラボメニュー「北欧コース ”春の訪れを光で感じる フィンランドの食卓”」
こばやしあやなさん、素敵なお話をありがとうございました!フィンランドの雪景色の中にも、春の光を感じる情景が目に浮かんできました(^^)そんな情景からインスピレーションを得て、ルオカラのシェフがコースメニューに仕立てました。光を表現した料理の数々を是非お楽しみくださいませ。
【前菜】光のリースサラダ
【スープ】タラとカリフラワーのクリームスープ~シャンピニオン添え~
【メイン】但馬鶏もも肉のポワレと季節野菜
【デザート】ブリニ~フィンランド風パンケーキ ベリーソース添え~
※仕入れ状況によりコース内容が変更になる場合がございます。ご了承ください。
【Keitto Ruokala(ケイットルオカラ)】
営業時間 11:00~21:00(お食事L.O 20:00 ドリンクL.O20:30)
※政府の緊急事態宣言等の勧告により、営業時間が変更になる場合がございます(※大阪府のまん延防止措置期間中、20時閉店となっております)
定休日 毎週火曜日
TEL 072-300-2680
※ディナーご予約(17:00~)は、店頭もしくはお電話にて承っております。
【Keittoのウィルス感染予防対策について】
ご来場のお客様に安心してお買い物やお食事・憩いの時間をお楽しみいただくため、新型コロナウィルス感染防止に向けて様々な取組みを実施しております。
検温、消毒、換気の他、全店舗に空気清浄機の設置、そして、壁、ドア、テーブル、いす、キッズスペース等全館において抗ウィルス施工(※)しており、万が一ウイルスが付着しても60秒後には消滅致します。※無光触媒コーティング「SKYBE-783」